分娩誘発・促進について

「分娩誘発」とは、自然に陣痛が開始しない場合に子宮収縮薬等を使用して、陣痛を開始させることです。また、自然の陣痛が弱いために分娩の進行が停滞する場合にも子宮収縮薬等をしようしますが、これを「分娩促進」といいます。
分娩はできる限り自然に、お母さんや赤ちゃんにとって安全に終了することが理想です。
しかし、有効な陣痛が開始しない場合や、お母さんや赤ちゃんの状態を考えると自然な陣痛が開始するのを待てない場合などがあります。このような場合には、子宮収縮薬等を使用して「分娩誘発」や「分娩促進」を実施して、分娩を進行させることが選択肢の一つになります。
子宮収縮薬等を使用することで、帝王切開術をせずに自然の状態に近い経腟分娩(産道を通して出産すること)ができることを目標としています。しかし、途中まで経腟分娩を試みていた場合でもお母さんや赤ちゃんの状態が危険になることや、分娩が進行しないことがあり、急きょ帝王切開術に方針を変更せざるをえないこともあります。

 

あなたが分娩誘発・促進が必要となる理由

分娩誘発・促進は以下のような場合に実施されます。

1.前期破水

陣痛が開始する前に破水してから分娩までの時間が長引いた場合、お母さんや赤ちゃんに感染がおこることがあり、赤ちゃんの状態が悪くなる可能性が高まります。破水してから分娩までの時間は長時間に及ばないほうが安全です。よって、破水した後でも一定時間以上陣痛が開始しない場合や陣痛が弱い場合には、分娩の進行を持つことができなくなるため、分娩を早期に終了する必要があります。

2.胎盤の機能の低下

分娩予定日を一週間以上過ぎてもなかなか陣痛が始まらない場合、やがて胎盤の機能が低下してきます。また、分娩予定日前であっても、検査の結果などから胎盤の機能の低下が疑われることがあります。これらを放置するとお腹の赤ちゃんが陣痛などの負荷に耐えられなくなることや状態が悪くなることがあり、胎盤の機能が低下する前に分娩誘発・促進を検討することがあります。

3.微弱陣痛

陣痛の弱い状態(微弱陣痛)が長時間続くとお母さんが疲れてきて、有効な陣痛にならず、分娩がなかなか終了しないことがあります。このような状態になると、低酸素状態が長時間続くなど負荷がかかることで赤ちゃんの状態が悪くなることや、子宮の筋肉が疲労することで分娩後の子宮収縮が不良となり、お母さんの産後の出血が多くなることがあります。このような場合、その原因を探った上で、子宮収縮薬等の使用など分娩促進が必要であると判断した場合は実施します。
なお、原因を探った上で、感染や胎盤の機能の低下などがない場合の微弱陣痛では、自然な陣痛の推移を見守り、改めて分娩が進行するのを待つことが可能なこともあります。

4.お母さんや赤ちゃんの状態の変化

お母さんの状態がお腹の赤ちゃんを育てるのに好ましくない場合(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、甲状腺機能の悪化など)や赤ちゃんがお腹に長時間いることが好ましくない場合(発育の状態や胎盤の機能に低下など)、赤ちゃんの元気さが確認できない場合も分娩誘発・促進を検討します。

 

実際に行われる分娩誘発法

1.子宮の出口(子宮頸管)の熟化を促す。

分娩誘発・促進が必要となる場合には、子宮の出口(子宮頸管)が熟化していない(軟らかくなっていない)ことがあります。その場合には、子宮の出口が広がりにくい傾向があるため、子宮収縮薬の使用に先立って、子宮の出口を水風船や吸水性の子宮頸管拡張器を用いて器械的に刺激し、人工的に子宮の出口を広げる処置をすることがあります。また、この処置のみで陣痛が開始することや、分娩に至ることもあります。

●メリット :器械的に子宮の出口が開くことで、子宮収縮薬の使用の効果が得られやすくなり、分娩までの時間を短縮できる効果があります。
●デメリット:器具等を子宮内に挿入することから、感染の可能性が増加します。また、臍帯脱出(臍の緒が先に出てくることにより、お腹の中の赤ちゃんに十分な酸素などが届かなくなる)の危険が増すという報告もあり、その場合は緊急帝王切開術が必要となることがあります。

2.子宮収縮薬の種類

  1. プロスタグランジンE₂(経口内服薬)
  2. オキシトシン(点滴静脈注射薬)
  3. プリスタグランジンF₂α(点滴静脈注射薬)

※なお、子宮収縮薬を複数同時に用いることはありません。

 

以下、個々の薬剤に関して説明いたします。

プロスタグランジンE₂(経口内服薬)

1時間以上空けて1回1錠ずつ内服し、一日に最高6錠まで使用します。その間に分娩誘発・促進の効果が確認された場合や赤ちゃんの心拍数などに異常がみられた場合には、それ以降の内服を中止します。経口薬であるため量を調整できないことが欠点で、過剰に飲ませないようにすることが重要です。他の子宮収縮薬(点滴静脈注射薬)との同時併用はしません。他の子宮収縮薬に切り替える場合も、最終内服後1時間以内には使用しません。また、内服開始前から分娩監視装置をお腹につけ、内服中は連続的にモニタリングを行い、胎児の心拍数や子宮収縮(陣痛)の状態を常時、客観的に評価します。帝王切開術や子宮切開術の既往がある場合や骨盤位(逆子)の場合には使用しません。また、気管支喘息や緑内障がある場合には原則使用せず、使用する場合はより慎重に投与することになっています。

オキシトシンやプロスタグランジンF₂α(点滴静脈注射薬)

点滴静脈注射薬は、子宮収縮(陣痛)の状況や赤ちゃんの状態をみながら点滴する速度を調整していきます。精密持続点滴装置(輸液ポンプ)を用いて時間あたりの使用量を厳密に調整しながら使用します。少ない量から開始し、30分以上の間隔を空けた後に必要と判断された場合に増量し、有効な陣痛が得られるまで徐々に増量していきます。他の子宮収縮薬との同時併用はしません。経口内服薬内服後に切り替える場合も、最終内服後1時間以上経過した後に使用します。また、使用開始前から分娩監視装置をお腹につけ、使用中は連続的にモニタリングを行い、胎児の心拍数や子宮収縮(陣痛)の状態を常時、客観的に評価します。なお、プロスタグランジンF₂は帝王切開術や子宮切開術の既往がある場合や骨盤位(逆子)の場合、気管支喘息や緑内障がある場合には使用しません。

3.起こりうる有害事象

どのような薬剤でも、その効果や副作用には個人差があり、有害事象をゼロにすることはできません。子宮収縮薬は、特に感受性の個人差が大きく、少量の使用でも強過ぎる陣痛になることや、最大量を使用しても陣痛が開始しないこともあります。なお、以下のような有害事象が起こった場合は、子宮収縮薬のしようなど分娩誘発・促進を中止し、帝王切開術により分娩することもあります。

過強陣痛

分娩の進行のそれぞれの段階に合わないような、かなり強い陣痛、長く持続する陣痛、子宮収縮の回数が頻繁な陣痛(間隔が短い陣痛)などの過強陣痛や、陣痛がずっと続いて間欠がない強直性子宮収縮になる場合があります。過強陣痛が持続した場合や悪化した場合などは、子宮収縮により子宮への血液の流れが減少して赤ちゃんが低酸素状態になることや、まれに子宮の筋肉の一部が裂ける子宮破裂や、子宮の出口が裂ける頸管裂傷、羊水が血液中に流入する羊水塞栓を起こすことがあるなど、お母さんや赤ちゃんが危険になることもあります。

全身的有害事象

一時的に吐き気を感じたり、血圧が上昇したりすることがあります。また、すべての薬剤にはアレルギー反応(発疹や喘息、重症では血圧が下がり意識消失することなど)が起こる可能性があります。

※これら各薬剤の有害事象等を記載した添付文書は「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」のホームページに掲載されています。

4.安全確保

安全確保のために必要なことについて

有害事象が起こらないように、また万が一起こった場合でも迅速に対応できるように、分娩監視装置をお腹につけます。また、血圧などを定期的に測定することや、点滴を行うことなどがあります。これらのほか、お母さんや赤ちゃんの状態によっては、検査をすることや、水分や食事の制限をすることもあります。

お知らせいただく状況について

かなり強い陣痛、長く持続する陣痛、回数が頻繁な陣痛など過強陣痛と考えられるような陣痛や、胎動を全く感じない、大出血した、挿入した水風船が脱出した、破水したなどの場合には、担当医師や助産師などにすぐにお知らせください。もし、異常ではないかと感じたり、不安に思われる場合は、遠慮したり我慢したりせず、担当医師や助産師など医療者にお知らせください。

5.分娩誘発・促進を実施しない場合に考えられる結果や代替方法

実施しない場合に考えられる結果

 「あなたが分娩誘発・促進が必要となる理由」でご説明したような理由から、お母さんや赤ちゃんの状態が悪化する可能性があります。

他の代替的な治療方法について

分娩誘発・促進を希望されない場合は、自然な陣痛を待つことや、陣痛の推移を見守ることになります。その場合には、「あなたが分娩誘発・促進が必要となる理由」で説明した危険性が生じる可能性がありますので、ご理解の上で同意についてご検討ください。(※自然待機した場合で、児の状態が悪化したことが疑われる際には帝王切開術が必要となることもあります。)

セカンドオピニオンについて

 分娩誘発・促進の実施に同意するにあたり、可能な時期であれば他の医療機関に相談すること(セカンドオピニオンを受けること)も可能です。相談することで不利益をこうむることはありません。セカンドオピニオンを希望する場合には担当医師に相談し、他の相談が可能な時期かなど確認の上で検討してください。